飯塚 西湖 いいづか せいこ
   

問僧之什(問僧一律)
偶入招提境
禪心歩々加
百年誰在世
三界本無家
猿捉水中有
蝶追風裏花
問僧僧不答
堤外夕陽斜
問僧之什(問僧一律)
(たまたま)入る 招提(=寺)
禅心(=精神をある対象に集中させ,宗教的な精神状態) 歩々(=一歩一歩)加わる
百年 誰ぞ世に在るか
(何故)三界 本に家無しか
(何故)猿は 水中に有る(月)を捉えるか
(何故)蝶は 裏花の風(の香り)を追うか
僧に問う 僧答えず
堤外 夕陽斜めなり
三界に家無し
 仏伝(仏陀の伝記)に、昔、蘇陀夷という子がいた。七才のとき、「おまえの家はどこにあるのか」と、仏陀がお尋ねになった。蘇陀夷は「三界に家なし」と即座に答えた。仏陀はこの答えに喜び、まだその年齢に達していないのに受戒させて僧伽に加えられた。と言う由来が記されている。 
 三界とは、「欲界・色界・無色界」の三つの世界をいう。欲界とは「欲のある者が住む世界」のことで、地獄から神々が住む天界の一部の世界。色界とは「肉体と精神は存在するが、欲の無くなった世界」で、梵天が住む世界から大自在天の住む世界までで、無色界とは「欲も肉体も消滅した世界」、つまり、精神世界。その中で最も清浄なる精神が行き着く世界が有頂天。したがって、三界とは、地獄から有頂天までの世界のことで、「三界に家なし」とは、地獄から有頂天まで安楽に住むことができる世界はないという意味。
 「本当に安らぐことのできる場所は、三界を超えたところ(仏陀の世界である浄土)にこそ求めよ」ということである。
猿猴捉月(『僧祗律』七)
 「猿猴」は猿ことで、「猿たちが木の枝から次々と尾をつかんでぶら下がって、井戸の中の水に映った月を取ろうとすると、枝が折れてしまい、猿たちは溺れ死んだ」という昔話から、「自身の地位や能力を過信して、欲を出しすぎて身を滅ぼす」こと。
風従花裏過来香(風は花裏(かり)より過ぎきたって香し)(禅林類聚)
 字義通りに解釈すれば、「花々をすぎて渡ってくる風の香りは一段と芳しい」という意味になる。しかしこの句の本当の意味は、「花々の間を過ぎてきた風が花そのもののように香っている。もともと香りのない風が花と出会い影響を受けた。恐れることなく花に出会い、花の間をくぐり抜けて香りを運んでみよう。出会うことも修行。運ぶことも修行。無心でいればいいのだ。」
 「多くの人々の賞賛を受けるに値する人はさまざまな経験や艱難辛苦を経てきていることを見逃してはならない」ということである。「人生をより深きものにするには、人に見えぬところでも様々な経験を積み重ねて、はじめて味わい深いものになる」という禅の教え。
咏富岳
昆屯刮天地
中峰日有開
維卯之所息
元氣自胚胎
咏富岳
昆屯(=混沌)として 天地を刮(こそ)
中峰 日 開く有り
(これ)(=東)所の息
元気(=万物発生の元になる大気) 自ら胚胎(=物事の起こる原因やきざしが生じる)
49.4p×21.7p

弘化2年(1845)生〜昭和4年(1929)12月6日歿
 出雲国(島根県)松江市内中原町生まれの漢詩人、法律学士。元の名は、飯塚静庵、のちに飯塚納と名を改める。号は西湖、字は脩平。カール・マルクス(プロイセン王国(現ドイツ)出身のイギリスを中心に活動 した哲学者、思想家、経済学者、革命家)に唯一、直接会ったことがある日本人とされている。
 松江藩主の松平定安に命ぜられ、文久3年(1863)の冬に江戸に出て、鉄砲洲慶應義塾に入塾し福澤諭吉から直接に学ぶ。慶應義塾就学時代の聡明さが勝海舟の目に止まり、海舟の推挙で維新政府の徴士となり、明治3年(1870)にフランス留学を命ぜられ、明治13年(1880)に帰朝している。
 欧州留学中に、フランスでエミール・アコラス博士に師事して法制学を学ぶ。特に西園寺公望と深い親交があり、西園寺の後ろ盾を得てカール・マルクスに学ぶ機会を日本人として初めて与えられ、西園寺にマルクスを紹介した。
 明治6年(1873)、留学中のスイスで尊敬する西郷隆盛の辞職を聞いて故国に望みを経ち、スイス他欧州各国歴遊の旅に上り、ジュネーヴ湖畔の景観が郷里・松江を思わせるところからついに西湖と号を改めた。明治13年(1880)に帰国。
 帰国後に漢詩・漢文の腕を研き、明治14年(1881)『東洋自由新聞』の発刊に参加して一時期民権運動に関係したが、次第に国家主義運動に傾倒するようになり、本田種竹、釈情潭らと関係を持つ。
 麻布飯倉片町に紀州徳川家の文庫「南葵文庫の会」が発足すると、会員として発起人となり、毎月1回「南葵文庫」を主催し、及び会員の自宅で講演を行った。この南葵文庫を中心としたサークルは次第に右翼的な性格を持つ『老荘会』に関わるようになり、『老荘会』は更に発展して、大川周明・北一輝らの『猶存会』となった。
 著書に『西湖四十字詩』がある。

推奨サイト
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A3%AF%E5%A1%9A%E8%A5%BF%E6%B9%96
https://kotobank.jp/word/%E9%A3%AF%E5%A1%9A%E7%B4%8D-1051993
http://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000103017


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